大腸がんの発症には、食生活、飲酒、肥満、運動不足、遺伝的素因など多くの要因が関係するが、喫煙もその一つだ。
これまで喫煙と大腸がんの関係について、肺がんなどほど明確な結論は出ていなかった。
しかし、長期間にわたるコホート研究やメタ分析が蓄積され、現在では喫煙が大腸がんの発症リスクを高めることがわかっている。
大腸がんの生活習慣上の危険因子としては、飲酒、肥満、運動不足、加工肉や赤肉の摂取などが挙げられる。
喫煙によるリスク上昇は肺がんほど大きくないものの、喫煙者が多いことを考えれば集団全体に与える影響は無視できない。
大腸がんは総称であり、一つの均質ながんのことではない。一般に、盲腸からS状結腸までに発生する結腸がんと、その先の直腸に発生する直腸がんに分けられる。
また、結腸がんも、盲腸・上行結腸などの右側結腸がんと、下行結腸・S状結腸などの左側結腸がんに分けて研究されることがある。
日本で実施された10件の集団ベース・コホート研究を統合し、36万3409人、延べ266万6004人年を追跡した研究では、この間に9232人が大腸がんと診断された。
男性では、生涯非喫煙者に比べ、喫煙経験者の大腸がん全体のリスクは19%高かった。
部位別では、結腸がんが19%、遠位結腸がん(おおむね左側結腸に相当)が28%、直腸がんが21%高かった。
現在喫煙者と過去喫煙者のいずれでも、大腸がん全体のリスク上昇が認められた。 さらに、男性では1日の喫煙本数、喫煙期間、累積喫煙量が増えるほど大腸がんのリスクが高くなる用量反応関係が示された。
60箱・年以上の喫煙者では、非喫煙者よりリスクが35%高かった。
日本の女性は喫煙者が少ないため、推定値の不確実性が比較的大きかった。
大腸がん全体では統計学的に明確なリスク上昇は確認されなかったが、遠位結腸がんでは喫煙経験者のリスクが47%高かった。
また、1日20本を超えて吸う現在喫煙者や、累積喫煙量が40箱・年を超える女性で大腸がんリスクの上昇が認められた。
この研究は、日本人でも喫煙が大腸がんの危険因子になることを示す有力な証拠である。一方、喫煙状況は研究開始時にしか調べられておらず、その後の禁煙や再喫煙などは十分に反映されていない。
また、食生活などによる交絡(他の隠れた要因)の可能性も残る。
大腸がんは発生した場所だけでなく、がん細胞に生じた遺伝子・分子の特徴によっても分類できる。
このような分類を「分子サブタイプ」という。
同じ大腸がんでも、がん化に至る経路や治療への反応、予後が異なる可能性がある。
大腸がんの多くは、正常な粘膜から突然がんになるのではない。まず、ポリープなどの前がん病変ができ、遺伝子変異やDNAメチル化などの変化が重なることで長い時間をかけてがん化する。
喫煙による大腸がんの発生は一つの遺伝子異常だけでは説明できないということになる。
タバコ煙によるDNA損傷、DNAメチル化、前がん病変の形成、DNA修復機能の低下などが長期間にわたって重なり、正常な細胞ががん細胞へ近づいていくことが示唆される。
これまでの研究の蓄積から、喫煙も大腸がんの発症リスクを高めることがわかってきた。
喫煙は、鋸歯状ポリープなどの前がん病変の形成、DNAメチル化、MSI-highなどを特徴とする発がん経路に関係する可能性がある。
また、NNKなどのタバコ由来物質が、すでに存在するがん細胞の増殖や浸潤を促す仕組みも細胞・動物実験から示されている。